退職を前にすると、普通は不安で保障を厚くしたくなる。
私も当初はそう考えていた。
でも結論から言う。
退職5ヶ月前の今、医療保険を全部解約することにした。
きっかけは、当たり前のことに気づいたから。
医療保険は、病気を治してくれる保険ではない。
この一言が、私の判断の起点だ。
無謀な丸腰ではない。むしろ逆。数字で不安を安心に変えた上で、減らす判断に至った。何をどう確認して、浮いた保険料をどこに回すことにしたのか。決断段階の記録を残しておく。
ひとつ先に断っておく。これは「医療保険は不要」という主張ではない。あくまで私のケースの判断記録だ。家族構成・健康状態・手元資金によって答えは変わる。
退職を前に、医療保険・がん保険を全部解約することにした
解約するのはこの3本
解約するのは次の3種類だ。
- 医療保険(入院・手術給付型)
- がん保険(診断給付+入院特約付き)
- 先進医療特約
我が家でこの3本にかけているのは、夫婦合わせて月10,254円。年間にすると約12万3,000円だ。
もともと保障を手厚くしていたわけではない。それでも、残すものはひとつもない。完全な全解約だ。
保険会社名は出さないが、20代〜30代にかけて順番に加入し、ずっと払い続けてきた。
50代後半の今、この契約をすべて終わらせる。
ただし、手続きそのものはまだしていない。実際に解約するのは退職する10月だ。在職中の保険や健康保険との兼ね合いで、退職のタイミングでまとめて手続きするのが段取りとして自然だからだ。
「まだ解約していないのか」と思うかもしれない。でも、退職もライフプランも、すでに解約を前提に組み終えている。迷っているのではなく、いつ手続きするかが決まっているだけだ。
収入が止まる前なのに、なぜ減らせたのか
退職して収入が止まるタイミングで保障を減らす。
「逆では?」と思う人が多いはずだ。私もそう感じていた時期がある。
でも調べるほど、逆に確信が深まった。
その理由は2つある。
- 日本の公的保険があれば、医療費は法外にはかからない(後述)
- 生活防衛資金5年分が”自己保険”として機能する(後述)
この2つで数字が揃ったとき、不安という感情が安心に変わった。
退職前の手続き全体で何をやるか確認したい方は、関連記事「退職前にやること・手続きリスト完全版」もあわせて読んでほしい。
そもそも医療保険は、病気を治してくれる保険ではない
保険金は「治療」ではなく「お金」しか生まない
医療保険・がん保険の給付金は、病気の治療そのものを提供してはくれない。
届くのはお金だけだ。
これは当たり前のことだが、改めて整理すると見え方が変わる。
| 保険が「してくれること」 | 保険が「してくれないこと」 |
|---|---|
| 入院・手術時に給付金を支払う | 病気を防ぐ |
| 先進医療の技術料を補填する | 病気を早く治す |
| 診断時に一時金を出す | 健康を維持する |
保険はあくまで「後払いの現金」だ。
入院中の生活費の穴埋め・治療費の補填には機能する。だが健康そのものには何もしてくれない。
入院日額型の医療保険も同じだ。
入院1日あたり5,000円出るとして、それが治療の質を上げるわけでも、退院を早めるわけでもない。
「治す保険」より「病気にならない努力」に回す発想
ここまで整理すると、自然に疑問が浮かぶ。
同じお金を使うなら、病気になった後に備えるより、
病気にならない努力に回すほうが合理的ではないか。
これが、私が保険料を”健康資産”に振り替える判断をした、価値観の起点だ。
具体的に何に振り替えるかは後段で詳述するが、まずここでは「守り(保険)から攻め(予防)へ」という方向転換を確認した、という話だ。
ただし、これは「だから医療保険は不要」という一般論ではない。私はこう捉え直した、という話だ。
解約できたのは「数字で不安を安心に変えた」から
ここが記事の核心になる。
逆張りの判断を支えているのは、2本の柱だ。
(a) 公的保険(高額療養費)があれば、医療費は青天井ではない
(b) 生活防衛資金5年分を確保済み=自己保険が成立している
この2つを数字で確認したとき、不安という感情が安心に変わった。
公的保険(高額療養費)があれば、医療費は青天井ではない
「病気になると医療費が大変」というイメージがある。
でも日本には、高額療養費制度という強力なセーフティネットがある。
ひと月の自己負担に上限が設けられる仕組みだ。
所得区分によって上限額は異なるが、中位の所得帯(標準報酬月額28〜50万円程度)を例にとると:
ひと月に医療費が100万円かかっても、自己負担は約87,430円で頭打ちになる
(80,100円 +(1,000,000円 − 267,000円)× 1%)
これは現時点の制度に基づく数字だ。
さらに、直近12ヶ月で上限超えが3回以上続くと、4回目から上限が下がる「多数該当」という仕組みもある。
医療費が青天井になる、というイメージは、この制度を知る前の話だ。
⚠️ 注意:上の計算例は現時点の制度に基づくものだ。高額療養費制度は見直しの議論が続いており(令和8年〈2026年〉8月以降の上限額見直しなどが検討されている)、過去には実施が見送られた経緯もある。確定した内容ではないので、最新の上限額は厚労省・協会けんぽの公式サイトで必ず確認してほしい。
退職後の健康保険の選び方(任意継続 vs 国民健康保険)や、公的保険の仕組みをより詳しく知りたい方は、関連記事「早期退職後の健康保険、任意継続vs国保どちらが得か」を参照してほしい。本記事では「公的保険があれば法外にはかからない」という安心の根拠として確認するにとどめる。
生活防衛資金5年分=取り崩せる資産が「自己保険」になる
もう一本の柱は、手元の生活防衛資金だ。
私は生活防衛資金として5年分を確保している。
これは「使わないお金」ではなく、いざというときに取り崩せる資産だ。
医療費・緊急時の出費が発生しても、この資金から賄える。
つまり、民間の医療保険が担う「緊急時の現金確保」という役割を、防衛資金自身が果たしている。これが「自己保険」という考え方だ。
毎月の保険料を払い続けるより、手元に確実な資金があるほうが合理的な場合がある。これも人の状況によって変わるが、私のケースでは防衛資金が十分に機能する、と判断した。
防衛資金を何年分持つべきかの考え方については、関連記事「生活防衛資金は何年分あれば安心か」で詳しく解説している。
この2つで、不安という感情を数字に置き換えられた
整理すると、こうなる。
- 医療費が法外にかかることは、公的保険の制度上まずない
- 万一かかっても、生活防衛資金5年分で賄える資金基盤がある
この2点を数字で確認できたことが、解約判断の土台になった。
「なんとなく不安だから保険を持つ」という感情ベースの状態から、「数字で見たら、この保険は私には不要」という判断ベースの状態に変わった、ということだ。
感情が安心に変わるには、漠然とした安心感では足りない。自分のケースの数字を確認する、というプロセスが必要だった。
浮いた保険料は”健康資産”に振り替える
数字の安心が確認できたら、次は前向きな話だ。
年間で約12万円の保険料。大きな額ではない。それでも、この原資をどこに回すかは考える価値がある。
保険料 → 人間ドック・ジムへ
振替先として決めているのは2つだ。
- 人間ドック:年1回のフルコースを受ける
- ジム・トレーニング:月単位での継続投資
人間ドックは、会社の健診では拾えない検査項目を自費でカバーする。退職後は会社経由の健診がなくなるため、自分で整える必要がある。その費用を保険料から充てる。
ジムへの投資は、体力・筋力の維持管理だ。50代後半から先の健康資産を積む、という意味合いになる。
年間12万円。人間ドックを1回受ければ、それで使い切るくらいの額かもしれない。それでも、「病気に備えて寝かせるお金」を「健康に使うお金」に置き換える意味は大きい。
「治す保険を持つより、病気にならない自分でいる」。
これが私が選んだ方向だ。
予防と早期発見で備える
ここで明確にしておきたいことがある。
予防努力(ジム・食事・生活習慣の管理)で期待しているのは、生活習慣病リスクの低減だ。
そして、もうひとつ。解約すると決めたこと自体が、続けるための動機になる。ジム通いは、ともすれば続かない。でも保険を手放すと決めた以上、病気になれば——公的保険があるとはいえ——自分の金銭負担は発生する。その覚悟が、「だから続けるんだ」と自分に言い聞かせる支えになる。保険を解約するという選択は、健康投資をやめないための縛りでもある。
がんについては別の話になる。がんは生活習慣の改善で完全に防げるものではない。私も「鍛えればがんにならない」とは思っていない。
がんへのコスト面の備えは、先述の2本の柱(公的保険+防衛資金)で対応する、という位置づけだ。がん保険を手放す理由もここにある。「予防で防げる」からではなく、「かかった場合のコストは公的保険と防衛資金でカバーできる」という判断だ。
人間ドックの意義は、異常を早期に見つけることにある。
何かが見つかれば早期に対処できる。そのための定点観測だ。
健康そのものを資産として維持・管理する
この考え方を一言でまとめると、「健康資産」の維持管理になる。
医療保険は、病気になった後に現金を補填してくれる。
一方、人間ドック・ジムは、病気になる前の健康状態を維持・底上げしてくれる。
同じお金を使うなら、後者に回したほうが合理的だ。少なくとも私のケースでは、そう判断した。
守り(保険)から攻め(予防・早期発見)への組み替え。これが保険料を健康資産に振り替える、という考え方の実体だ。
退職で「増やしたくなる」場面で、あえて減らせた理由
収入が止まるタイミングで保障を減らす。
この逆張りが成立した理由を、最後に整理しておく。
退職=不安という感情は、当然出てくる。私にもあった。
その不安の正体は、「病気になったとき、お金が足りなくなるかもしれない」という懸念だ。
この懸念は、具体的な数字で解消できる。
先述の2つの土台——高額療養費の上限と、防衛資金5年分——を確認したとき、「法外にかかることはない」「万一かかっても賄える」という確信に変わった。これが安心の土台だ。
その上に、もう一つの動機が乗った。
保険料を払い続けるより、その分を健康投資に回すほうが、これからの人生で実際の価値を生む。数字の安心があったからこそ、この「攻めの予防」へのモチベーションを高められた。
不安 → 数字で安心 → 安心の上に攻めの予防。
この動線が揃ったとき、逆張りの判断が自然に出てきた。
だから今、解約すると決めた。
手続きを終えて「解約してみてどうだったか」は、退職後にあらためて記録したい。今この記事に残しているのは、退職5ヶ月前に腹を決めた、その理由のほうだ。
まとめ:医療保険を手放して、健康に投資するという選択
私がこの記事で記録したことを整理する。
- 全解約の対象:医療保険・がん保険・先進医療特約の3本(夫婦で月10,254円)
- 解約できた根拠:高額療養費制度(公的保険)+生活防衛資金5年分という2つの土台
- 振替先:人間ドック・ジムへ。保険料を守りではなく、攻め(健康資産の維持)に回す
もう一度確認しておく。これは「医療保険は不要」という主張ではない。
家族構成・健康状態・手元資金・収入の見通しによって、答えは変わる。私のケースでは、2つの数字が揃った上で全解約の判断に至った、という記録だ。
この記事を読んで「自分はどうか」と考えた人に、ひとつだけ提案がある。
まず自分の数字を確認してほしい。防衛資金は何年分あるか。退職後の生活費はいくらか。そこが明確になれば、医療保険をどうするかの判断も変わってくるはずだ。
その確認作業に、第三者の目を借りる価値がある。解約のような大きな判断ほど、自分一人の試算だけでなく、専門家に数字を見てもらうのが合理的だ。
▶ 自分の防衛資金とライフプランを、一度プロに確認してみる
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