「約束して」退職する──孤独が得意な私がFIRE前に人間関係を”予定”に変える理由

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退職を考えて、初めて気づいたことがある。

会社員時代、私は人間関係に恵まれていた。でもそれは、自分の力で築いたものではなかった。

一人は平気だ。孤独そのものは、正直あまり苦にならない。でも私は外交的ではないし、人付き合いはむしろ苦手な方だ。自分から誰かを誘ったり、新しい関係を一から築いたりするのが得意ではない。

それでも社会資本(人とのつながりから生まれる豊かさ)に恵まれていたのは、会社という”毎日人と会う仕組み”が、私の代わりにそれを用意してくれていたからだ。

だから怖いのは、一人になって寂しいことではない。

会社という仕組みが消えたとき、人付き合いの苦手な自分には、その社会資本を新しく築き直す力がない。今あるものを失えば、補充できないまま枯渇していく──それが、退職5ヶ月前の今、私が抱えている一番の不安だ。

だから私は、意志ではなく仕組みで、今ある関係を残すことにした。

退職する前に、ゴルフや麻雀や飲みを”約束”として先に入れておく。これが私の言う「約束して退職する」だ。

この記事では、退職5ヶ月前の私が人間関係を3つの層に仕分けして、どれを手放し・どれを残すと決めたかを書く。


目次

会社で人間関係に恵まれていたのは、私の力ではなかった

FIREを決断して、しばらく経ってから気づいた。

会社を辞めることへの不安はいくつかあった。お金・時間・やりがい。でも、一番シミュレーションしにくかったのが人間関係だった。そしてそれを掘り下げたとき、ある不都合な事実に行き着いた。

会社員時代、人間関係は会社が”勝手に”用意してくれていた

毎朝オフィスに行けば、自然に誰かと言葉を交わす。

廊下で会えば挨拶が生まれ、昼食を誰かと食べ、会議で顔を合わせ、帰り際に「お疲れ」と言い合う。意識しなくても、一日に何十回も人と接触している。

これは接点が自動的に設計されている状態だ。

会社という仕組みが、私の代わりに関係を維持してくれている。自分の意志や努力ではなく、出社という行為ひとつで、社会とのつながりが毎日更新されていく。

そして退職するということは、この仕組みを丸ごと手放すということだ。

私は外交的ではない──会社の外で、一から社会資本を築き直す自信がない

ここで正直に書かなければならない。

私はコミュ症気味だ。「孤独が好きな人」とは少し違う。一人でいることは平気だが、自分から誰かに連絡したり、新しい輪に入っていったり、関係を一から作り上げたりするのが、根本的に得意ではない。

にもかかわらず、これまで社会資本に恵まれていたのは、会社の仕組みのおかげだった。毎日顔を合わせるから自然と仲良くなった。プロジェクトを共にしたから信頼が生まれた。会社側が接点を作ってくれていた。

退職後、その覆いが外れたとき、私に残るのは何か。

新しい場所で、一から人間関係を築いていく力は、正直ない。それが自分についての現実的な自己評価だ。

だから怖いのは「一人が寂しい」という感情ではない。人付き合いの苦手な自分が、会社の外で社会資本を再構築できず、今あるものを失えば枯渇する一方になる──これが、退職前の私を一番困らせている問題だ。

退職という決断をめぐる心理的な逡巡については、早期退職を後悔しないために今やっていることで詳しく触れている。この記事では、具体的にどう関係を設計するかに絞って進める。

ジムは「新しく築けない」の動かぬ証拠だ

「新しい場では関係を築けない」──これは弱気な予測ではなく、今まさに起きている事実だ。

退職を決めた頃から、健康資産を守ることを意識して、健康のためにジムに通い始めた。今も継続している。半年以上、週に何度も通っている。

それでも、顔見知りは一人もいない。

声をかけるきっかけを作ろうとしたわけではないし、人脈を広げようと思ってジムに来ているわけでもない。ジムはあくまで健康のための単独行動だ。でも図らずも、この事実が「自分には新しい場で関係を築く力がない」という自己評価を、予測から証拠に変えた。

「新しい関係を補充できない」という前提は、退職後の社会資本設計を考えるうえで、絵空事ではなく実証済みの出発点だ。


だから私は人間関係を「3つの層」に仕分けした

どの関係も等しく維持しようとすれば、疲弊する。

逆に、すべてを手放してもいいとは思わない。退職後の時間は今より自由になる。その自由の中で、どの関係を生かすかを意識的に選ぶことが、社会資本の設計だと考えている。

整理した結果、関係は3つの層に分けられた。

失う層・眠る層・維持層という3つの分け方

特徴
失う層 会社という接点がなくなれば自然に途切れる。意図的に維持しない
眠る層 今は止まっているが、やろうと思えば再開できる
維持層 これからも続けたい。だから、退職前に”約束”として固定する

この3層は、それぞれ対応が違う。

失う層は嘆かずに受け止める。眠る層は縁を絶やさず、眠らせておく。維持層は意志に頼らず、予定という仕組みで残す。

「維持する」と「約束する」はどう違うのか

「維持したい」という意志はある。でも意志だけでは動かない。

これは怠惰の話ではない。人付き合いが苦手な自分は、「いつかまた会おう」という気持ちがあっても、自分からアクションを起こすのが得意ではない。加えて、孤独に慣れているから、動かなくても困らずにいられる。

この2つが重なると、関係は静かに放置されていく。

「約束する」とは、日付を先に入れてしまうことだ。

「また今度」を「○月に会おう」に変える。それだけで、意志ではなく予定が関係を維持するエンジンになる。外から見ると小さな行動変化だが、自分の性質を知っているからこそ、この転換が重要になる。


【失う層】手放すと決めた関係を、嘆かないで受け止める

失う層の話は、短く済ませる。

特別つらいわけでも、悔しいわけでもない。ただ、会社という場所があったから続いていた関係があり、その場所がなくなれば自然に終わるということだ。

少人数で組む後輩との関係

プロジェクト単位で一緒に動いた後輩がいる。

仕事上の信頼関係はある。でも関係の基盤は「同じプロジェクトにいる」という事実だ。私が退職すれば接点は消える。定期的に連絡を取り合うほどの関係でも、お互いそれを求めてもいない。

これは失う層だ。

感謝はある。でも、無理に維持しようとすることは、むしろ相手に余計な負荷をかける可能性もある。潔く手放すことが、一つの誠実さだと思っている。

退職時の社内関係をどう仕舞うか、という引き継ぎの設計については、いずれ別記事で書く予定だ。

「途切れてもいい関係」を見極めることが、残す関係を選ぶ前提になる

失う層を正直に認識することは、維持層を守ることにつながる。

すべての関係を等しく「大切に」しようとすると、エネルギーは分散する。何を諦めるかを決めることで、何を守るかがクリアになる。

この仕分けがないまま退職すると、なんとなくすべての関係が薄れ続けるという結末になりやすい。


【眠る層】距離があって日付は入れられないが、機会が来たら必ず再開したい関係

眠る層は、放棄でも維持でもない第三の選択肢だ。

駐在先の現地の仲間──今は止まっているが、機会が来れば再開したい縁

長い中国駐在の中で、一緒に働いた現地の仲間がいる。

今はほぼ仕事上のつながりが途切れている。離れてしまえば、自然と連絡も減っていく。でも、彼らとの関係は「失った」とは思っていない。

中国の仲間は、よそ者の私を本当に温かく迎えてくれた。家族とまでは言わないが、強い仲間意識のようなものがある。人付き合いが苦手な私が、それでも現地に溶け込めたのは、彼らの歓迎があったからだ。異国で助けられた関係でもある。

退職をきっかけに駐在先を訪れることができたなら、自分から声をかけたい。向こうが来日した時には、必ず連絡してほしいと思っている。

これは「また会えたらいいな」という漠然とした気持ちではない。機会が来たら必ず動く、という意思として持っておく関係だ。

距離があるから「日付」は入れられない。だから”機会ベース”の再開を意思として持つ

維持層と眠る層を分けているのは、関係の強さではなく、物理的な距離だ。

距離が近ければ、日付を先に入れられる。「来月、一緒にゴルフをやろう」という約束が成立する。これが維持層の設計だ。

中国に残る仲間とは、距離がある。日付を固定することが現実的ではない。だから「次に渡航したときには声をかける」「来日したときには連絡がほしい」という、機会ベースの再開を意思として持っておく。

この違いが、維持層(日付で固定)と眠る層(機会を待つ)の境界線だ。

「また今度」と漠然と思っているのとは違う。機会が来たら必ず動くという意思を、今から持っておくことが眠る層の扱い方だ。


【維持層】ゴルフ・麻雀・飲みを”約束”として退職前に仕込む

ここが記事の中心になる。

新しく築けないからこそ、今ある関係を失う前に持ち出す。それが、この記事の核心だ。

今も国内で会える仲間との関係を”約束”(=予定)に変える

維持層として扱うのは、今も国内で会える相手だ。距離が近いから、日付を先に入れられる。

一つは、現職で関係が深まった仲間だ。毎日顔を合わせていた人たちと、退職後に会える関係を残せるかどうかは、今の行動にかかっている。「退職後も会おう」と明示的に伝えることを、今のうちに動かしている。

もう一つは、帰国後も近くにいる、中国駐在時代の同僚だ。日本に戻ってきた後、今も定期的に顔を合わせている関係がある。帰国で物理的な距離がなくなったからこそ、日付という形で約束を入れ続けることができる。先述の中国に残る仲間(眠る層)と違い、こちらは距離が近いぶん、今すぐ”約束”として固定できる。

どちらも、放っておけば自然に疎遠になっていく。人付き合いが苦手な私が、退職後に関係を新しく作ることはできない。だから今、持ち出す。

なぜ「また今度」ではなく日付を入れるのか

外交的でない人間は、「また今度」と言った瞬間に気持ちが満足してしまう。

「会いたいという気持ちを伝えた」という事実だけで、何かを達成した気分になる。そしてそのまま動かない。困らないから、動かない。

これが積み重なると、関係は静かに薄れていく。そして補充する力もない。

日付を入れることは、仕組みを作ることだ。

「11月に一緒にゴルフをやる」という約束が入っていれば、私は必ず行く。それがゴルフである必要はないが、具体的な予定という形になっていれば、人付き合いが苦手な私でも動ける。意志に頼らず、仕組みで動く設計だ。

孤独耐性が高く、自分から動くのが苦手な人ほど、この「予定化」は効く。

「約束して退職する」とは、退職時点で人間関係を予定という形に変換しておくことだ。新しく築けない自分が、恵まれていた今ある関係を、期限が来る前に持ち出すための設計だ。

退職5ヶ月前の今、私が実際に動かしていること

時制を正直に書く。

現時点では「始めた」ではなく「仕込んでいる」段階だ。退職はまだ5ヶ月先であり、実際にその関係が退職後も続くかどうかは、まだわからない。

具体的に進めていることは3つある。

  1. ゴルフを軸にした定期連絡の再開。帰国後も近くにいる、駐在時代の仲間と集まれるスケジュールを先に調整している。ゴルフというフォーマットがあれば、「また飲もう」より動きやすい。予定に紐づいた連絡が入りやすい。

  2. 退職の事前通知を”会う口実”にする。「退職することになった」という知らせは、懐かしい人への連絡のきっかけになる。一方的な報告ではなく、「また会おう」という言葉とセットで伝えることで、次の約束につながる動線を作っている。

  3. 麻雀の場を定期化する。麻雀はMリーグの盛り上がりで、クリーンな頭脳ゲームとして広く再評価されている。仲間内では「脳トレになる」「集まる口実になる」と言いながら定期的に集まっているが、正確なところは私には判断できない。私にとっては、ゴルフや食事と並んで「定期的に顔を合わせる仕組み」として機能している点が重要だ。固定のメンバーで、固定の頻度で集まる場があることが、関係資本の安定に直接つながる。

いずれも「退職後にやること」ではなく、「退職前に設計すること」として動かしている。

退職後に「さて、誰かと会おう」と思ってから動くのでは遅い。そのとき自分から動ける人間ではないことを、自分が一番よくわかっている。だから今、先に入れておく。


「約束して退職する」は、人付き合いが得意でない私のための設計だ

3つの層を整理してみると、構造はシンプルだ。

  • 失う層:潔く手放す
  • 眠る層:縁をつないでおく
  • 維持層:今すぐ日付を入れる

この設計は、社交が得意な人がもっと頑張る話ではない。

人付き合いが苦手で、新しい関係を一から作る力がない自分だからこそ、今ある恵まれた関係を、退職という期限が来る前に仕組みで持ち出す──そういう設計だ。

補充できないなら、失わなければいい。

退職後の孤立を防ぐために何かを頑張るのではなく、退職前に今あるものを予定に変えておく。

意志に頼らない関係資本の残し方

関係資本は、意志で維持しようとするとコストが高い。

「ちゃんと連絡しなきゃ」「また会いに行かなきゃ」という義務感は続かない。仕組みとして設計されたとき、関係は義務ではなく習慣になる。

定期的に集まる場、固定したフォーマット(ゴルフ・食事・麻雀)、先に入れた日付。

これらは関係資本を「意志」ではなく「予定」として運用する仕組みだ。

人付き合いが苦手な私が設計した、人付き合いが苦手な私のための装置だ。

退職後の家計設計についても、同じ発想が使える。感情や決意に頼るのではなく、仕組みとして先に整えておくことが、退職後の生活基盤を安定させる。退職金の受け取り方(一時金・年金・併用の判断軸)については、別記事で詳述している。

退職後の家計と時間が整っていれば、約束はもっと守りやすくなる

「約束を入れた」だけでは、まだ半分だ。

退職後に家計と時間が不安定だと、入れた約束も守りにくくなる。「お金が心配だから今月はやめておこう」「なんとなく気持ちの余裕がない」という状況では、せっかく設計した予定が飛んでいく。

退職後の家計と時間の設計は、約束を守り続けるための土台でもある。

試算した数字を一度専門家の目に通しておくと、「だいたいこれくらい使える」という感覚が具体的になる。漠然とした不安が減れば、約束を守ることへのハードルも下がる。


まとめ

一人は平気だ。孤独そのものは得意だ。

でも、会社に恵まれていた社会資本を、人付き合いの苦手なまま手放すつもりはない。

私がコミュ症だと気づいたのは、退職を考えたときだった。自分の力で関係を築いてきたと思っていたが、実際には会社の仕組みに乗っていただけだった。その覆いが外れたとき、補充する手段がない。

だから仕組みを作る。

退職する前に、ゴルフや飲みや麻雀を”予定”として先に入れておく。意志ではなく、日付という形で関係を固定しておく。これが私の言う「約束して退職する」だ。

失う層は手放す。眠る層は縁をつないでおく。維持層は今すぐ日付を入れる。

この設計を、退職前のうちに動かしておく。


退職後の家計と時間の設計を、今のうちに一度整理しておくことをすすめる。漠然とした不安が減れば、人との約束も、自分との約束も、守りやすくなる。

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